脱炭素に向けて、今、日本の大学生にできること

ESG投資の背景にあるSRI(社会的責任投資)が、もともと宗教的信念による投資であったものが、広範な市民運動に発展したことには、大学の基金や大学教職員年金が大きな役割を果たしました。1960年代にベトナム戦争に反対して、軍需産業への投資を忌避する市民運動が起こったのですが、この運動をリードしたのがハーバード、エールなどの大学生達でした。彼等は反戦デモに加えて、大学基金の投資先から、ベトナム戦争で使われているナパーム弾を製造していたダウケミカルなどを、排除するよう強く求めたのです。大学の経営は、授業料など学生からの収入、寄付金、政府の補助金、事業収入などによって成り立っており、大学自身の存続のため、資産運用は重視されており、株式や債券、不動産などに投資されています。

この運動は 1980年代に、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離制度)に反対して、南アフリカと取引のある企業の株式を売却する運動にも引き継がれ、南ア白人政権が黒人のANC との対話路線にかじを切り、結果的にアパルトヘイトの終焉をもたらしたと評価されています。

2013年7 月 30 日付のブルームバーグニュースは、2012年に、ハーバード、エールなど 8つのアイビーリーグの大学を含む、アメリカの数百の大学キャンパスで、350の学生組織に率いられた学生達が、石油、ガス、石炭関連などの企業活動が気候変動を増大させているとして、200社を大学基金からはずすことを要求している、と伝えています。

そのアメリカの学生達から遅れること9年の2021年現在、日本の大学生達が大学基金に対して、脱炭素投資を求めた例を寡聞にして知りません。日本の人口動態の変化による急速な高齢化で、2030年には、日本の個人金融資産の10%に当たる200兆円が認知症患者のものになる(第一生命経済研究所調べ※)、また2035年には全金融資産の40%を70歳以上が保有する、との試算があるそうです(みずほ総合研究所調べ※)。

脱炭素に向けて、何よりも急務は資金を動かすことであり、今の日本の大学や関係者に求められるのは、金融知の蓄積と金融行動ではないでしょうか。 約3兆円以上の資金を運用するハーバード大学では1972年以来、専門家を招聘し、学生、教授、卒業生で構成される「株主責任諮問委員会(ACSR)」が毎年、株式を保有している企業のCSRに関わる株主決議に対する方針を注意深く検討し、人権や環境問題、平等な雇用機会、政治献金などについて、多くの提言を行っています。

※「週刊現代」2019年10月1日号

株式会社グッドバンカー
リサーチチーム

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