中長期的な企業の成長性を判断する

改正金融商品取引法が施行され、2024年4月から第1四半期と第3四半期の四半期報告書が廃止されます。今後は決算短信に一本化されますが、セグメントごとの収益やキャッシュフローに関する情報開示を義務化することで、開示が後退しないよう配慮しています。

四半期開示については、既にイギリスやフランス、ドイツでは、2014~15年にかけて法定義務を廃止しており、日本では2018年に金融審議会で廃止の是非を議論しましたが、維持を決定しました。

2021年、岸田首相が所信表明演説で四半期開示の見直しを表明し、「企業が長期的な視点に立って、株主だけではなく、従業員や取引先も恩恵を受けられる『三方良し』の経営を行うことが重要。非財務情報開示の充実、四半期開示の見直しなど、そのための環境整備を進める」と述べていました。

もともと、業績の開示については、対象を単体から連結へ拡大したり、頻度を増やしたりすることで、投資家の要請に応じて情報提供を拡充してきた経緯があります。しかし、これにより企業や投資家の短期的利益志向を助長しかねないことが課題とされていました。

今回の見直しにより、国は企業に対し、より長期的で、かつ消費者や地域社会など投資家以外のマルチステークホルダーの視点に立った経営を促していく狙いがあります。また、短期的な利益を測ることが困難な研究開発などへの投資が増えることも期待しているとみられています。

金融庁は、2023年3月期から、有価証券報告書で人材育成の方針や数値目標といった人的資本に関する情報の記載を義務づけました。四半期報告書の廃止は、企業が短期間の業績ばかりでなく、中長期的な視点で人材投資などに取り組みやすくすると言えるでしょう。

これまで、上場企業は取引所が求める四半期決算短信と、財務局に提出する四半期報告書の二つの書類を作成しなければならず、企業側からはその負担の重さを指摘する声がありました。

一方で、有価証券報告書へのサステナビリティ情報とコーポレートガバナンスに関する取り組みの開示義務や、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく気候変動リスクの情報開示、また男性の育児休業取得率の公表義務化など、様々なESG対応が求められています。 企業の中には、「四半期開示の見直しで余力ができれば、気候変動対策などサステナビリティの開示の充実にあてられる」と述べる経営者もいます。今後は、投資家自身も、財務情報とともに、これらのESG情報(=非財務情報)を参照しながら、企業の中長期的な成長性を判断する目が必要となりそうです。

株式会社グッドバンカー
リサーチチーム

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