SRIの世界

※本コラムは、共同通信社より配信されたものです。

安倍政権が主導する大規模な金融緩和によって、円安株高が進んでいます。多くの投資家は株式の配当や過去の企業業績など、もっぱら数字で表される財務的な指標に頼って企業を選別しています。
しかし株式や社債などに投資する場合には、別の考え方もあります。「環境問題に真面目に取り組んでいるか」「拠点を置く地域と誠実に付き合っているか」といった点を物差しに、企業の行動を点検し投資先を決めるのです。企業が株主、顧客、社員、地域社会に対する責任を果たしている かどうか。「社会的責任投資(SRI)」と呼ばれるこの考え方に沿って投資されているお金は、世界中で 約1200兆円 に上ると言われています。

東京証券取引所グループと投資顧問会社「グッドバンカー」は2012年7月、環境、社会、企業統治(ガバナンス)に熱心な企業を・社選定しました。本業だけでなく、社会貢献活動なども対象になっています。
生物の多様性を守る宣言を発表したアサヒグループホールディングス、水処理技術や燃料電池の素材を開発している東レ、電気自動車の開発と普及を急ぐ日産自動車などがあります。コマツは発展途上国の開発に役立つ建設機械の生産や、地雷除去活動への支援が評価されました。東レ、日産は社内で女性が活躍できる場を広げていることも評価されました。

経営者に収益だけでなく、環境や社会問題にも関心を持つよう促し、社会全体を変えていく。投資にはそんな役割もあるのではないでしょうか。

●コラム第2回 女性、若者が投資家に・年代末にエコファンド

社会全体の中で企業が果たす役割が大きくなり、環境、人権問題などへの対応を重視する投資家も増えてきました。

国内では、1999年に登場した日興証券(現SMBC日興証券)グループの投資信託「日興エコファンド」が登場しました。グッドバンカー社も商品開発に協力し、運用資産は発売から4カ月で1千億円に達するヒット商品になりました。購入者のほとんどは、投資経験のない女性や若者だったことから、新しい投資家層の出現として注目されました。

企業の倫理や責任に注目する投資の先駆けは、1920年代の米国に見られます。
酒、タバコ、ギャンブルに関連した産業に、教会の基金を投資するのを避けたそうです。

・年代には、ベトナム戦争に反対して軍需産業への投資をボイコットする運動がありました。・年代になると、消費者運動と連携した「グリーンインベスター(緑の投資家)」が現れました。

社会的責任を問われる側の企業の姿勢も変化してきました。・年代半ばにはアパルトヘイト(人種隔離)政策をとる南アフリカ共和国に投資している企業の株式を売却する大きなキャンペーンが展開され、米国のIBM、ゼネラル・モーターズ(GM)などが南アでのビジネスを大幅に縮小あるいは停止しました。これが南アにアパルトヘイトを終わらせる一つの要因になったと言われています。

・年代には、環境問題の解決につながる技術やサービスに集中投資する「グリーンファンド」が欧米で生まれました。

社会が抱えるさまざまな問題を改善するための手法として「社会的責任投資(SRI)」という呼び方が生まれました。最近は女性の起用や公正な運営を求め、企業統治(ガバナンス)も重視されます。労働組合、公的年金などが、こうした手法に基づいて投資し、影響が広がってきました。

●コラム第3回 両立支援普及に協力 ブランド価値向上も

人口減少社会が到来し、企業が持続的に成 長していくには労働力の確保が重要な課題になっています。育児や介護との両立を支援する職場づくりに努力したり、国籍、性別、年齢を問わずに人材を起用したりする企業を評価し、投資対象とする「ファミリー・フレンドリーファンド」という投資信託があります。グッドバンカー社が 2004 年に開発し、設定来の騰落率は東証株価指数を約 4% 上回っています。

地方自治体の間では、独自の表彰制度やセミナーなどによって、中小企業に「両立支援(ワーク・ライフ・バランス)」を広げようとする動きがあります。第一生命保険はこうした自治体と協定を 結ぶなどして、取引先の中小企業に自治体が作成したパンフレットを配布する活動をしています。京都、宮城、静岡、奈良、福井の5府県と 協力しています。第一生命は47都道府県すべてで展開したいと意気込んでいます。

日本の人口が減少すれば、保険に加入しようとする人も減っていきます。少子化は経営リスクの一つだと、第一生命はとらえているのです。自治体と歩調を合わせ、仕事と家庭の両立を支援する取り組みを中小企業に広げようとする試みは、地域への社会貢献にとどまらず、事業戦略としても評価できます。ワーク・ライフ・バランスに率先 して取り組む企業として、ブランド価値も高まるでしょう。

どこの会社でも、出産、育児、介護などさまざまな事情を抱え、家庭と仕事の両立に悩んでいる社員はたくさんいます。その多くは女性です。

家庭の事情で職場を去る人を減らしたり、いったん仕事から離れた人が復職しやすい仕組みをつくったりすることは、企業にとってプラスになることです。こうした会社を選んで投資することは、女性の働く意欲を生かすことにつながります。長い目で見れば、少子化対策にも結び付くでしょう。

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