2024年5月21日、欧州連合(EU)において世界初の包括的なAI(人工知能)規制法「AI法(Artificial Intelligence Act)」が成立しました。これは、民主主義や人権、法の支配を守りながら、信頼できるAIの普及を目的としており、事業者には説明責任などの義務が課されます。米マイクロソフト社が出資するオープンAI「ChatGPT」や、グーグル社の「Gemini」など、生成AIへの注目が高まる一方、AIが誤報やフェイクニュース、著作権侵害に加担することへの懸念も強まっています。進化が著しい生成AIについては、別枠でも規定が設けられ、著作権の順守、開発のための学習に使ったデータの詳細な概要を公開することなどを義務付けました。この「AI法」を違反した場合、高額な制裁金が課されることになっているほか、「域外適用規程」があり、欧州で事業を展開する日本を含めた各国企業は従わなければならなくなります。
AIの規制については、日本をはじめ多くの国がルールづくりを模索している段階であり、この「AI法」は、今後、世界基準になる可能性があると言われています。
EUはこれまでも、「RoHS指令」や「REACH規則」など、様々な規制を先行的に定めてきました。グローバル企業には輸出入品に関わる化学物質対応を求めてきたことに加え、2023年1月には「企業サステナビリティ報告指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)」が発効し、欧州に適用対象となる子会社があれば、2025年会計年度までに対応しなければならなくなりました。
このように、EUの先行的な規制に、各国はそれに対応せざるを得ない状況が続いています。同時に、欧州の企業の対応もそれだけ進んでいると考えられます。
日本では、2024年4月に、経済産業省が「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を発表しました。これは、安全・安心なAI活用の促進を狙いとしたAIガバナンスの指針となりますが、強制力はありません。法整備については、EUでの「AI法」成立の翌日、政府のAI戦略会議の会合で、生成AIの開発事業者らに対する法規制の検討を今年の夏にも始める方針を決定したとしており、今後、数年かけて導入の是非を議論するとされています。
政府はこれまで、AIの開発促進を重視し、運用については開発や利用する企業の自主的な取り組みに委ねてきたところがあります。しかし、世界各国が法整備に着手する中、日本もその必要性に迫られています。
「AI法」は、2026年中の全面適用をめざしていますが、一部は2024年末にも適用開始となる見込みがあります。企業には、世界的な流れを読んで、独自に対応していく力が求められます。けれどもその姿勢は、企業のESG対応にも表れていると言ってもよいでしょう。なぜなら、「儲かる・儲からない」とは別に、「必要なことには取り組む」という姿勢が求められるからです。そのように、規制にもESGにもプロアクティブ(先見的)に対応する企業は、リスクを低減する力があるとみています。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム