中央銀行の役割とESG調査・評価

現在、各国中央銀行・金融当局による気候変動問題への取り組みが進められています。気候変動がもたらす物理リスク(災害の増加等)や移行リスク(規制強化や技術革新等)が、物価の安定や金融システムの安定を脅かすとの考えも広がっています。主要国の中央銀行・金融当局が気候変動への対応を話し合うネットワーク(NGFS、2017年12月発足)は、2019年4月、金融政策における気候変動問題への対応を求める6つの提言を発表しました。

この動きが先行する欧州では、NGFSが2020年に策定した気候変動の基本シナリオに基づいて、金融機関の経営への影響を分析するストレステスト(健全性審査)が実施されています。イギリスは2021年3月、BOE(英中央銀行)のマンデート(責務)に世界で初めて脱炭素を追加し、それに沿って、11月から200億ポンド上限の社債買い入れに環境基準を導入するなど、世界の動きをリードしています。ECB(欧州中央銀行)は、7月の金融政策の見直しで、気候変動対応を政策に反映させる行動計画を出しました。欧州に比べ気候変動対応に消極的とされるFRB(米連邦準備制度理事会)も、気候変動が金融機関や金融システムにもたらす影響を検討する2つの委員会を立ち上げており、今後取り組みが進む可能性があります。日本銀行は、2021 年6月、金融機関が行う気候変動対応のための投融資を支援する資金供給制度の導入を発表し、12月下旬から開始します。このように、国によって取り組み方には違いがあります。

中央銀行の伝統的な機能・役割は、通貨の信任、金融システムの安定、景気変動への調整で、これらを遂行するために中立性・独立性が必要とされています。各国の中央銀行は、この本来機能の範囲内で気候変動対応に取り組むことをめざしていると見ていますが、これについて当社は、国内外の各分野の専門家に直接ヒアリングを行いました。元日銀審議委員は、BOEやECBの取り組みは企業の行動を変えることが目的であり、欧州に比べ間接的な仕組みを導入した日本も、社債の買い入れに環境基準を採用するべきとしています。また、気候変動対応において世界の共通認識となっているカーボンプライシング(CO2排出に価格を付け市場メカニズムを通じて排出抑制する仕組み)の導入は欠かせないとの意見でした。フランス在住の当社顧問によると、欧州でも中央銀行の役割について議論が続いているそうです。また、化石燃料産業から投資撤退する「ダイベストメント」ではなく、再生可能エネルギーの導入など脱炭素化への移行を支援する「トランジション・ファイナンス」が有効とし、欧州では国の脱炭素目標を法制化することなどで移行を促進しているとのことです。 当社では、このように専門家に直接ヒアリングを行い、中央銀行の政策などいわばマクロの視点と、企業のESG施策というミクロの現場の知見のハイブリッドにより、ESG調査・評価の質を深めることに努めています。

株式会社グッドバンカー
リサーチチーム

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