投資環境と金融市場の見通し(124)

Ⅰ.2023年の総括・回顧

景気

  1. 世界景気は、中央銀行によるインフレ抑制の為の政策金利の引き上げと、アフターコロナ需要の一巡により、今年後半に景気後退局面(特に米国)に入るとの予想が多かったが、意外に堅調に推移した。
  2. 足元ではユーロ圏が2四半期連続のマイナス成長だが、米国は景気の落ち込みが上方修正されるとの予想で楽観論が支配的。
  3. 中国は、不動産バブル崩壊が顕著となり、習近平体制3期目での微妙な政策の舵取りで踏ん張っている。“日本化”“デフレリスク”を指摘する見方が増えた。
  4. 日本は、潜在成長率(+1%以下)並みの“低位&安定”成長が恒常化。

物価

  1. インフレ上昇は世界的にピークアウト。卸売物価(資源、食料品)はコロナ前の水準にまで沈静化。消費者物価(川下)はサービス価格上昇により高止まり。
  2. 特にユーロ圏、英国の物価上昇率が、急騰後の反動により足元で急低下。
  3. 日本は、政策補助金などを控除すると前年比+4%程度の物価上昇が生活実感。実質賃金のマイナス状態が続いている。

金融政策

  1. FRB、ECBは、10月から12月での政策決定会合では政策金利の引き上げを休止し、“見送り&様子見スタンス”に転換した。市場参加者は次の「利下げ実施」をスピード違反気味に先取りして、長短金利は11月から急低下した。
  2. 植田日銀総裁は4月に就任以してから、7月、10月の2回に「YCC政策」をスマートに廃止した。金利正常化の出口に向かって着実・堅実に歩みを進めている。「マイナス金利政策」をいつ解除するのかが次の焦点に。

リスク要因

  1. FRB(FOMC参加者)や楽観的投資家が期待しているように、景気・物価が軟着陸するのか否か。2022年のインフレ加速局面では判断・対応が遅れた、という事跡がパウエル体制にはある。政策金利の引き上げも遅れ気味に漸増された。
  2. これまでの金融引き締めの影響が今後の景気動向にどの程度影響するのかは、依然として不透明。
  3. 中国での不動産関連グループを巡る破綻懸念や、金融商品発の信用不安リスクは依然として燻っている。中央政府が懸命にテコ入れを行い、政策下支えと情報秘匿に努めているので、懸念が先送りされた“藪の中状態”。

投資環境・市場見通し

  1. 欧米主要国での“利上げ終焉”、2024年からの“利下げ開始期待”の思惑から、長短市場金利は急速に低下して高値水準での乱高下の動き。 世界の投資家の4分の3は「米国利上げ終了」を前提に債券投資に強気となった。
  2. 日本はようやく「潜在成長率(+0.5%)並みの成長、デフレ脱却、プラス金利」の正常状態に移行しつつある。
  3. 日銀のマイナス金利政策解除の時期が接近しているので、金利格差からの米ドル買い需要が減退した。歴史的な「米ドル高・円安」局面はピークアウト。
  4. 日本の企業業績は堅調で上方修正が続く。円安の恩恵もあるが、経営・資本効率の見直し・改善効果が徐々に顕在化。
  5. 日本株の優位性が見直され、海外投資家(バフェット効果)からの投資資金が流入した。
    • 日本株の出遅れ(世界比較、中国からの資金シフト)
    • 企業業績の改善・上方修正
    • 「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」を是正する資本効率の見直し
    • コーポレートガバナンスの改善・進展
    • 2024年からの「新NISA」制度による個人投資家資金の流入期待

Ⅱ.2024年の見通し

景気

  1. 世界経済成長率(OECD予測)は2024年が2.7%、25年が3.0%。金利低下により足元からは底入れ反発するが低水準での横這い推移。米国は+3%、日本は+1~2%、ユーロ圏は0~1%のレンジ推移。中国も5%水準で横ばい。
  2. 米国は来年前半に循環的な景気減速期を迎える。スローダウン&ソフトランディングがコンセンサス。物価鈍化に続いて、景気も減速するので金融政策に影響を与える。
  3. 日本は「脱デフレ=物価上昇(3%)」、「賃金上昇=2023年並みかプラスアルファ(+4%)」「脱マイナス金利=金利上昇」、物価・賃金・金利の“3つが上がる”年に。

金融政策

  1. FRBは2024年後半、ECBは2025年に利下げに踏み切る、というのが直近 のコンセンサス予想だったが、半年早まってFRBは24年前半の可能性が高まる。
  2. FRBの見方は年3回だが、市場は6回(都合▲1.5%)を先取りしている。ECBも2024年には利下げに転じるとの観測が一気に強まる。春先から利下げを実施して年4~6回(都合▲1.0~1.5%)の予想となっている。ECB首脳の認識とは異なる過剰な期待先行の動きを債券市場は見せる。
  3. 植田総裁は4月の就任以降、2回(7月、10月)にわたって「YCC政策」を廃止、着実・堅実に出口に向かって歩を進めている。24年前半にマイナス金利を是正することで、17年ぶり(今世紀で3回目)の利上げに踏み込むと見られる。金利正常化への出口は近いが、過去2回では短期間で緩和に転換を余儀なくされている。
  4. 歴史的なドル高局面が反転し修正の動きに転じている。欧米との金利格差と日本の構造的な貿易・経常赤字構造から、130円台への緩やかな円高に向かう。

投資環境・市場見通し

  1. 現状は「物価沈静化」「景気減速」「金利低下期待」に裏付けられた金利低下による債券が買われる典型的な「金融相場」の局面。さらに株式市場においては、堅調な企業業績(上方修正期待)に裏付けされた「業績相場」の色合いも先取りしている。
  2. 2024年も基本的な裏付けは変わらないが、プラス金利に戻るのでボラティリティは高まり、買われ過ぎでのバリュエーション調整と、突発的なリスク要因の顕在化によるコレクションを交えながら強気展開となる。
  3. 企業業績は、米国、日本ともに堅調で、前年比+10%前後の増益予想。①米国は金利低下(政策金利の引き下げ)によるリスクの低下、②日本は「マイナス金利の解消」=「脱デフレへの出口戦略を評価」が上乗せされるプレミアム評価(=株価上昇ポテンシャル)も期待される。
  4. 一方で、「楽観論(=ゴルディロックス相場)」を裏切るファンダメンタルズ要因でのリスク展開としては、①「物価高止まり」「家計貯蓄の払底」「消費減退」により米国が景気後退、②金利低下、株高によるインフレ再燃からFRBが追加利上げに動く、③日米の政策金利修正タイミングのズレによる急速なドル安・円高の進行、となれば、ニューヨーク株式相場は史上最高値圏にあるだけに調整圧力は強まる。
  5. 2024年は、台湾総統選挙(1月13日)、インド総選挙(4~5月)、米国大統領選挙(11月5日)という注目選挙の年。中国が台湾、インドの選挙に、ロシアが米国大統領選挙に、介入・妨害・工作するのかも焦点(ネガティブサプライズ)。
  6. 日本株は、30年間続いた“デフレ局面”から遅ればせながら脱却する転機の年になるので、新たな投資チャンスが到来する。
    • コーポレートガバナンス改革が進展(経営体質と企業戦略が明確化)
    • “PBR1倍割れ是正”の要請が資本効率の改善につながる動きが加速
    • 中国から流出する投資資金の受け皿として、出遅れの日本株が評価される
    • 2024年からの「新NISA制度」は、個人投資家・若年層投資家からの長期・安定的な資産形成資金が市場に流入するので、需給的にはインパクト大

田淵英一郎

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