投資環境と金融市場の見通し(122)

Ⅰ.要約

景気・物価・金融政策

  1. 世界景気には下押し圧力が強まる。
    • 中国(不動産危機)・欧州(地政学リスク)のモーメンタム鈍化
    • ロシア vs ウクライナ戦争、中東紛争による資源価格高騰リスク
    • 高インフレ抑制の為の政策金利高止まりの影響(住宅投資・個人消費)
  2. 世界景気の“アンカー役”(下支え役)を果たしてきた米国個人消費の先行き懸念が強まっている。
  3. 原油価格は乱高下し、FRB議長が金融緩和期待にブレーキを掛けたことから、米国金利はボラティリティが上昇、長期金利(10年債)は5%台に乗せた。
  4. 足元では、「原油高、米国金利高、米ドル高」の“トリプル高”の様相。これは世界景気へのブレーキとなる。
  5. FRBでの11月1日のFOMCでは利上げは見送り。12月12・13日会合での利上げ観測が強まる。2024年でも可能性は残る。「利下げ時期」も先送り。FRBによる金融政策は一段落ながら微妙なかじ取りが求められる段階に。高止まりする物価情勢と強さを見せる労働需給(賃金上昇懸念)から、引き締めスタンスを継続せざるを得なくなる。長期金利の上昇が景気への下押し圧力に。
  6. ECBも2022年7月から10会合連続で利上げを続けてきたが、10月26日の理事会で初めて利上げを見送った。ユーロ圏での物価上昇モーメンタムの鈍化、景気減速懸念などから、「利上げ」局面は第2ステージに。
  7. 日銀は緩和政策を継続する姿勢を表明し続けるが、円安進行と物価上昇圧力の高まりにより、どこまで許容されるのか微妙な局面を迎える。日本のインフレ上昇率は、実質的(補助金などを考慮すると生活実感的)には既に+4%水準にある。賃金上昇はタイムラグで追いつかない。円安進行への政治的圧力が強まり、来年春まで半年間も緩和政策を修正しないのが許容されるのか問われることになる。

債券・為替・株式市場

  1. 米国の長期金利がどこまで強含むのかが引き続き最大の焦点である。10月9日に16年ぶりに5%水準を付けたが、先高観が継続。
  2. 日米間の金利差も当面続くとの見方から米ドル高・円安基調にある。ドル円は10月3日に150円台を付け、直後に日本当局が覆面介入(?)して反落したが、直ぐに買い戻される。26日には再度150円を突破してきたので、次の一手を待っている状況。
  3. 米国景気が減速に向かい、日銀のマイナス金利政策の転換を意識してくるタイミングが近づくので、金利格差要因からの米ドル高エネルギーは、今後徐々に減速する。ユーロもECBが連続的引き締め姿勢を軟化させてきたので、ユーロ高にも転機が近い。
  4. 米国株は、長期金利の上昇と景気(消費)減速懸念から調整局面、下値模索の動きがまだ続く。長期金利が5%水準まで到達したので、株式の割高感が急速に高まる。
  5. 中国株式(上海市場、香港市場)は、リスク(景気、不動産、金融)回避からの海外投資家による資金逃避の動きが続き、株価は調整局面。不可解な政治リスクも表面化。
  6. 東京株式市場は、国内外の金利上昇局面にあることと、NY株式市場、中国市場が調整の動きにあるので、連動した典型的な「逆金融相場」での株価調整局面にある。
  7. 日本株は、短期的には以下のリスク要因に左右される。
    • 米国の財政・債務・予算協議の混乱
    • 中東情勢の不透明感と中国市場の投資リスク(景気、不動産、金融)の高まり
    •  FRBによる金融政策のタイト化と長短金利の強含み&高止まり
    • 日銀の政策変更(“出口戦略”)のへの思惑
    • 企業業績の下方修正バイアス
  8. 一方で、海外市場と比較すれば日本株は相対的に割安で安心感があり、海外投資家が再度評価する可能性がある。
  9. 2024年から始まる「新NISA(少額投資非課税制度)」のインパクトは大きい。高配当・高利回り株、増配期待銘柄を主体に、長期間・継続的な投資資金の流入が期待される。

田淵英一郎

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