投資環境と金融市場の見通し(123)

Ⅰ.要約

景気・物価・金融政策

  1. 物価上昇モーメンタムが鈍化し、中央銀行による金融引き締めは様子見段階に。
  2. 物価上昇はピークアウトしたが水準自体はまだ高い。FRB、ECBの当面の金融政策の基本的なスタンスは“中立”“是々非々”
  3. 10月開催のFRB、ECBの金融政策会合では利上げが見送られたことから、「2022年からの金融引き締め政策は終了」との観測が強まった。米国FRBの12月12・13日会合での利上げ予想(年内あと1回)も急減した。
  4. 足元の世界景気(特に個人消費)に下押し圧力が強まる。
    • 米国小売業の売り上げモーメンタムは鈍化、製造業の景況感が低下
    • 今年の中国の「独身の日」(11月11日)セールスは節約志向で+2%増
    • ユーロ圏のPMI景況感指数(11月)は6ヵ月連続で50を下回る
    • 高インフレ抑制の為の政策金利高止まりの影響(住宅投資・個人消費)
    • 日本政府は内需の弱さから国内の景気判断を10ヵ月ぶりに引き下げ
  5. 中国の不動産関連グループを巡る破綻懸念や、金融商品発の信用不安リスクは依然として燻っている。政府が懸命にテコ入れを行い、政策下支えと情報秘匿に努めて、懸念は先送りされた藪の中状態。
  6. 日本は「潜在成長率(+0.5%)並みのマイルド成長、デフレ脱却、プラス金利(金融正常化)」のノーマル世界への移行過程にある。
  7. 日銀は緩和政策を継続する姿勢を表明し続けるが、円安進行と物価上昇圧力の高まりを回避すべく、YCC政策を徐々に緩和して緩やかに出口に向かいつつある。今後は「マイナス金利政策」の解除時期を巡る思惑が高まってくる。直近の調査(日経ヴェリタス)では、2024年4月予想が最も多く(32%)、1月予想も20%ある。

債券・為替・株式市場

  1. “利下げ観測”が復活して、期待先行の動きが強まった。長短市場金利は、インフレ見通し、政策金利見通しにより、高水準での乱高下の動きを当面続ける。
  2. FRBが2会合連続で、ECBが11会合ぶりに、利上げを見送ったことから、「金利上昇に歯止めがかかった」との見方が強まり、長期金利は低下。世界の投資家の4分の3は「米国利上げ終了」を前提に債券投資に強気になる。「利下げ期待」再来は過剰反応で時期尚早。FRBはしばらく景気の推移を見極める。
  3. 米国の消費者物価(10月)上昇率の発表受けて、長短金利は一段と低下した。10年債長期金利は10月の5%台から4.3%まで急落。
  4. 米国景気は第4四半期から減速に向かい、FRBは様子見姿勢となる。逆に日銀のマイナス金利政策の解除の時期への憶測が高まってくるので、金利格差からの米ドル高エネルギーは今後徐々に減退すると予想される。歴史的な「米ドル高・円安」局面の転換を徐々に意識すべきタイミング。ECBは引き締め姿勢を容易には転換させないので、ユーロはまだ買われやすい。
  5. 9月期業績発表を受けて、日本株の23年度予想は11月に入ってから1ヶ月間で+8.7%の上方修正。22年度実績値(2042円)から+10%増益となる。
  6. 日本株は、9月に大幅に売り越した海外投資家の買い戻しにより反騰。海外投資家の評価ポイントは。
    • 日本株式の出遅れ
    • 企業業績改善期待(増益率・収益率)
    • 増配・株主還元が増えてきている
    • 「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ状態」を是正する気運の高まり
    • コーポレートガバナンスの進展を評価
    • 2024年からスタートする「新NISA」による投資資金の流入期待
  7. 2024年から始まる「新NISA(少額投資非課税制度)」のインパクトは大きい。高配当・高利回り株、増配期待銘柄を主体に、長期間・継続的な投資資金の流入が期待される。

田淵英一郎

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