投資環境と金融市場の見通し(121)

Ⅰ.要約

景気・物価・金融政策

  1. 原油・ガソリン価格の上昇に加えて賃金上昇圧力により、足元のインフレは強含みに。物価の上振れリスクが意識され、中央銀行による金融引き締めの延長・再開の動きが見られる。FRB、カナダ中銀、スェーデン中銀、ノルウェー中銀など。
  2. 先進国の中央銀行における金融政策の先行き見通しは三者三様。ECBのハード路線は基本観だが、軟化を仄めかす。FRBは、緩和方向に転じたい意向が見え隠れするが、基本的にはニュートラル姿勢。物価上昇の高止まりがそれを阻止する。日銀は、景気の引き延ばし、財政インフレ阻止という政権・当局からの意向を受けて、緩和政策をあと半年は継続するソフトスタンスを表明し続けるが、円安の進行と物価上昇圧力の高まりから、どこまで許容されるのか微妙に。
  3. FRBは9月での利上げは見送ったが、次回11月1日のFOMCでは可能性が5分5分。さらに12月 12・13日会合でも見方が交錯している。2024年の見通しは利上げ継続 or 利下げと分かれているが、「利下げ時期」は先送りされている。
  4. カナダが、物価上昇再加速による10月会合での「利上げ再開」に転じる。英国中銀(BOE)は、利上げ観測が強かった9月会合で見送り対応に転換したので、「利上げ打ち止め」観測が広まった。スウェーデン、ノルウェーは利上げ方向。
  5. 新興国は基本的に利下げに動いている。中南米諸国は、チリ、ブラジル(2会合連続)が緩和政策に転換、ペルーも9月に利下げを決定した。タイは利上げ実施。
  6. 植田総裁は来年の春闘賃上げの結果を見極めるまで緩和政策を続ける意向を表明。日本のインフレ上昇率は、既に実質的には+4%台(コアコア指数、刈り込み指数)。2024年賃上げは今春(+3.58%)以上になろうが、+5%台にはなり得ず、実質賃金のマイナスが続く。その間に、米国との金利差拡大からドル高円安が一段と進行するので、半年間も緩和政策を修正しないのは物価上昇と円安から有り得ない。政府・当局からの円安阻止の意向を受けて、マイナス金利の修正に追い込まれるか。
  7. 中国の景気と不動産への先行き懸念はますます強まってきている。“デフリスク”は一段と高まり、不動産業界発の“金融システミックリスク”にも警戒を怠れない。中国のデフレ化は、習近平独裁体制による米中覇権争いが激化しているタイミングととともに、グローバル経済・貿易体制へのリスクとなりつつある。

債券・為替・株式市場

  1. 先進国(米国、カナダ、日本)の長短金利の強含みが続く。一方で、英国のように政策金利引き上げ完了との観測が台頭すれば、一気にタガが外れる。次はECBか。
  2. 日米間の金利差拡大は当面継続との観測から米ドル高・円安トレンドが続く。一方で、米国景気の減速基調と日銀のマイナス金利政策転換が近づきつつある。
  3. 米国株は、長期金利の上昇と景気(消費)減速懸念から調整局面入りし、下値模索の動きが続く。
  4. 中国株式(上海市場、香港市場)は、リスク(景気、不動産、金融)回避マインドが一段と強まり、海外投資家の国外資金逃避から、株価は当面調整局面。
  5. 東京株式市場も金利上昇が逆風となり、NY株式市場、中国株の下落から短期的に調整色を強めている。 23年度業績予想値は大きく下方修正。PER(株価収益率)からの割高感が強まっており、「逆業績相場」パターンとなってきた。金利上昇局面では“株価下落リスク”が高い。
  6. 短期的には以下のリスク要因により、株価は調整の動き。
    • 米国の財政・債務・予算協議の混乱
    • FRBによる金融政策のタイト化と長短金利の強含み&高止まり
    • 中国の景気動向、不動産会社の経営不安、地方政府の債務問題、金融リスク
    • ドル高・円安の進行
    • 日銀の政策変更(“出口戦略”)の前倒し観測(政府の為替介入に合わせて)
    • 企業業績の下方修正バイアス
  7. 2024年からの「新NISA(少額投資非課税制度)」スタートを先取りする個人投資家による動きは、既に始まっている。高配当・高利回り株やファンド、増配期待銘柄を主体に、長期での・継続的な投資資金の流入が期待される。

田淵英一郎

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