投資環境と金融市場の見通し(119)

Ⅰ.要約

景気・インフレ・金融政策

  1. 資源高からの卸売物価インフレはピークアウト、モーメンタムは減速中。需要回復と人手不足(供給制約)からサービス価格、人件費の上昇圧力が続いており、消費者物価上昇率は中央銀行の目標を上回り高止まりしている。
  2. 主要4地域(米国、ユーロ圏、中国、日本)における、景気動向と物価上昇の水準・方向性は、各々異なった状況となっている。米国の景気見通しは「ソフトランディング」観測が強まり、楽観的となってきた。物価上昇圧力の軽減も確認される。ユーロ圏は1~3月期で2四半期連続のマイナス成長(=テクニカル・リセッション)となり、今年後半にかけて鈍化基調が続く。インフレ上昇は未だピークアウトせず。中国の4~6月期は+3%台の成長に減速し、今後は「不動産不況」の影響が一段と顕在化する。物価上昇圧力も弱く、「デフレ状況」が強まる。日本の景気は低水準で推移し、一方、物価はジリ高基調で実質+4%増ペースである。
  3. 6月開催のFOMCの議事内容が明らかになると(7月5日)、FRB内部での“タカ派姿勢”の強いことが明らかになった。一方、金融市場参加者は楽観的な見方を続ける。景気への楽観的観測と物価統計から、警戒マインドは徐々に軟化している。市場参加者のコンセンサス(年内の利上げは今回7月を含めても「あと1回」)に変わりはない。
  4. 各国中央銀行の金融政策にも跛行性がある。FRB、ECBは7~9月に小幅の政策金利の引き上げを行った後は、いったん利上げを休止する公算が大きい。中国は緩和気味。日銀は「金融緩和継続」を表明しているが、「YCC政策」修正の観測が強まっており、早ければ今回7月、もしくは次回9月という可能性が高い。

債券・為替・株式市場

  1. 米国と日本の金融市場は、今後の金融政策を巡る思惑により足元乱高下している。米国はFRBの表明よりも楽観的な見方(引き締めは最終段階)から、株価は年初来高値の連騰を見せた。日本は緩和政策の修正観測が強まって、円高と株価調整となったが、「修正無し」の見方が復活し円安・株高となった。
  2. 金融市場参加者の楽観的見方は、FRBの強硬スタンスにすり寄らざるを得なくなり、短期金利(2年物国債)は2007年以来16年ぶりの5%水準まで上昇した。長期金利(10年物国債)は金融不安が高まった3月の4.1%を一時超えた。長短金利差は1981年以来42年ぶりの格差となったことから、米ドルは内外金利差拡大を背景に、対円に対して再度買われた。
  3. 今回7月でのFRB、ECB、日銀による金融政策の対応から、今年後半の各国での方向性が示唆される。FRBの引き締めスタンスは最終段階。ECBは引き続き引き締め姿勢を続けるが、スローダウンも見えてきた。日銀は“ファインチューニング”対応でそろりと緩和策修正に動きだした。今年前半の「ドル高・ユーロ高・円安」基調が反転するターニングポイントを迎えた。
  4. 海外株式市場も、強弱マチマチの跛行色ある展開。NYダウ平均は直近13連騰して年初来高値を更新する勢い。S&P指数の年初来上昇率は+20%に達する。欧州株式は横這い・低調で上値が重い。中国上海・香港市場はさらに軟弱で下値模索の動き。
  5. 東京株式市場は、4月からの外国人投資家による現物株式が一段落すると上昇一服となった。年初来上昇率は+29%。上昇相場第2弾となる条件としては、
    • 2023年度企業業績が上方修正となる
    • ROE(株主資本利益率)が改善する確信度合いが高まる
    • 貯め込んだ内部留保資金の積極的活用(設備投資、株主還元)が確認される
    • 2024年以降の賃上げが継続する(=実質賃金低下の是正)
  6. 4~6月の上昇過程で、個人投資家は2.9兆円、信託銀行(年金基金)は2.7兆円の利食い売却を行った。待機資金は十分であり、外国人投資家(中長期スタンス)の再参入とともに、“押し目買い”のタイミングを図っている、と期待される。上記⑤の強気要因が見えてくれば、株式市場への資金流入が期待される。

田淵英一郎

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