投資環境と金融市場の見通し(115)

Ⅰ.要約

景気・インフレ・金融政策

  1. 昨年来の物価上昇、金融政策の引き締め転換から1年が経過した。状況の変化から、次の新たな局面へ移行するターニングポイントを迎えていると思われる。
    • 「政策金利引き上げ」効果が景気・物価にどの程度の影響をもたらすのか
    • 「市場金利の上昇」が金融機関の信用リスクに波及し始めた
    • カネ余りとバブル・マインドによる「隠れ債務」や「リスク対応不在」が新たな「金融危機」につながる可能性が顕在化した
  2. 「シリコンバレーバンク」の破綻は、複数の「金融危機」リスクを明らかにした。
    • スタートアップ企業、VC、中小銀行のリスクマネーに依存した実態
    • 過大な預金量を米国債・住宅ローン担保証券(MBS)で運用していた金利上昇リスクに晒されたALM管理
    • SNSで信用不安心理と預金解約が拡散した現代版「取り付け」パターン
  3. 「クレディ・スイス・グループ」の破綻は、(福島原発事故と同じように)想定外の非顕在化リスクが表面化した異常な事態。国際金融危機を紙一重のタイミングで回避した。国・金融当局による“非常時対応”は今後に問題・禍根を残した。
  4. 欧米の金融機関の破綻連鎖は、金融当局による迅速な止血対応により、一旦は小康状態となっている。しかし別の事案が何時顕在化するのか、どこまで広がるのか、現時点でも「不透明感からの疑心暗鬼」マインドは続いている。
  5. 今回の混乱により、銀行の資金貸し出し基準・マインドは厳しくなることから、今年後半の景気にさらなる下押し圧力となる。「景気後退」リスクが一段と大きくなってきた。一方、物価上昇圧力も緩和されるのでインフレ終息にはプラスか。
  6. FRB(パウエル議長)は、1年前の年初と同様にインフレ見通しをまた誤った。雇用統計(1月分:2月3日発表)により政策金利引き上げの再加速に傾いていた。しかし、3月のFOMC前の米銀の連鎖破綻により、その対応を緩和せざるを得なくなった。今後は景気・物価判断の上に、信用・金融不安も考慮しなければならなくなったので、状況判断・政策対応は一段と難しくなる。
  7. 植田次期総裁による国会での所信表明はそれなりの安心感をもたらし、就任後に対処すべき課題と優先順位が見えてきた。欧米市場の混乱が鎮静化するまでは拙速な対応は無理なので、新体制は“様子見・徐行運転”でスタートか。

債券・為替・株式市場

  1. 3月に表面化した欧米金融機関の破綻の動きは、金利上昇へのブレーキ役になる。今年後半の景気減速圧力も強まることから、市場金利はピークアウト感が出る。
  2. 金利差拡大で米ドル、ユーロが買われてきた展開から、当面は金融不安の影響を意識せざるを得なくなった。ドル安進行のリスクが高まり、円高要因が強まった。
  3. 日銀の政策変更に期待した海外投資家からの“売り攻勢”は、一旦巻き戻しを余儀なくされた。植田新体制がスタートする4月以降の推移を見守りながらの様子見スタンスが当面続く。
  4. 過去10年間の「異次元緩和政策」は、いずれ時間をかけて緩やかに修正されていく。長短金利は時間を掛けて一旦は水準訂正されるので、「日銀の債務超過」リスクが徐々にクローズアップされていく。
  5. 新型コロナ感染拡大の一段落(マスク着用緩和)、物価対策発動による心理効果、岸田政権の支持率回復、WBC勝利など、海外市場での金融不安の台頭に比べて、(評価されるべきものではないが)日本を取り巻く材料に明るい兆しが出てきた。短期的には、日本株は海外市場と比べて相対的に安定感・割安感が出ている状況にある。
  6. 2024年からの「新NISA制度」により、長期・安定した投資資金の流入が期待される。株式需給にとって永続的な強気材料となる。高配当率銘柄、高配当指数ETFなどに継続的な投資資金の流入が期待される。

田淵英一郎

Top