未来の人づくりを支える

ハーバード大学グロースラボが「経済複雑性指標」を公表しています。これは世界各国の「生産的知識」をランキングにしたもので、輸出構成の多様性や複雑性に基づいて算出されており、複雑で専門的な生産ノウハウを多様に持つ国が、洗練された多彩な製品の生産が可能であると考えます。つまり、この「経済複雑性」の高い国は、それだけ高度で専門的な技術や人材が豊富であることを示しています。1995年から2020年のランキングの推移を見ると、アメリカは9位から12位に後退、韓国は21位から4位に急上昇し、中国も46位から17位に上昇しました。しかしこの間、日本はこのランキングで1位を独占していました(2018年から2023年の5年間では2位)。その意味するところは、日本は長い間、特定の技術分野で中核的な強みを持ち続けているということです。例えば、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の報告によると、日系マテリアル企業の全969製品について、2022年に日本が世界シェア60%以上を占める品目数は224と、米国系や欧州系、中国系と比べても圧倒的に多く、中には100%を占めるものもあります。
日本のものづくりを支えてきた日本独自の教育システムに、実践的・創造的技術者を養成することを目的とした高等専門学校(高専)があります。2022年は高専設置60周年を迎え、2023年4月には約20年ぶりの新設校として「神山まるごと高専」が開校しました。この「神山まるごと高専」は、カリキュラムのユニークさとともに、日本初となる奨学金基金スキームを導入し、約100億円の奨学金基金と長期寄付で学費無償を実現したことでも注目を集めています。それは、寄付を原資とした運用により、学校運営に必要な資金を生み出す奨学金基金制度です。まず、民間企業および個人が基金に対して拠出を行い、その拠出金を投資会社に委託して運用します。奨学金基金は、投資からの運用益を同校に寄付し、その資金は返済不要のパートナー奨学金として、生徒の学費に割り当てられます。奨学金基金への拠出および長期契約に基づき寄付をする企業は、「スカラーシップパートナー」と位置づけ連携するほか、各社の冠をつけたチームを学生が組成し、在学中・卒業後において、拠出企業と共同研究・新事業の創造、学生からの起業ピッチといった連携活動を行うことを想定しています。現在、11社がこの「スカラーシップパートナー」となっており、若い人材の育成を支援しています。また、彼らと連携することは、企業にとっても良い刺激となり、新たな製品・サービスの開発につながる可能性もあります。
「ものづくりは人づくり」とよく言われますが、企業がこうした長期的な視野に立った人材育成に取り組むことで、高度で専門的な技術や人材を生み出し、世界的な競争力の高さにつながっていくと言えます。企業のESGの一環として「人的資本経営」が脚光を浴びる中、このような企業の取り組みにも注目していきます。

株式会社グッドバンカー
リサーチチーム

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