国内の労働人口の減少や事業のデジタル化、生成AIの普及などを背景に、近年、日本企業では全社的なデジタルリスキリングが進められています。社内の人材育成では、「DX(デジタルトランスフォーメーション)人材」の育成が人的資本経営のテーマの一つとなり、取り組みが急速に広がっています。
かつてのようにIT部門に特化した取り組みではなく、現在では全社員向けにデジタルリテラシー教育をはじめ、データ分析や業務プロセス改革、AI内製化等、能力開発の一環として行われています。
ただし、この「DX人材育成」は、単なるITスキルを習得するための「IT研修」ではありません。「X(トランスフォーメーション)」の名の通り、デジタルによってビジネスに変革を起こせる人材を育成し、企業の競争力を向上させるための組織能力を再構築するための手段です。
AIの普及はビジネスの在り方を変容させ、従来業務をAIに肩代わりさせて効率化を図る傾向が見られます。しかし、このAIシフトにおいて、米大手テックのメタ(Meta)社のCEOが過ちを認めたとの報道がありました。
同社は今年5月、大規模な組織再編を実施し、世界の従業員の約1割を解雇するとともに、7000人の従業員をAIワークフローに関連する新たな業務へ強制的に異動させたのです。また、評価制度も変革し、これを従業員解雇と同時に行ったことで、社員の心理的安全性が失われました。
このような急激なAI業務への移行により、社員の不満の噴出と士気の低下により組織構造が破綻を起こしたため、CEOがシフトの進め方を誤ったと社内メモに残したとのことです。
このような混乱を招かないためにも、あくまで人材戦略の手段としてDXを行うべきであり、DXに人材が従属するという逆転構造をつくらないことが重要です。
冒頭でも述べた通り、DXは単なるITスキル習得ではありません。ITスキル習得やAIの活用による業務効率化は目的ではなく手段であり、真のDXは価値創造です。この点において、「DX人材育成」に取り組む多くの企業の差別化ができるのではないでしょうか。
人的資本経営とは、人材をコストや単なる資源ではなく資本と捉え、その能力や意欲を高める投資を通じて、中長期的な企業価値向上を図る経営のあり方です。どんな施策をどのように行うことが、その企業の競争力となるのかを見極めることが、ESG投資においては最重要と言えます。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム
